経営者に特有の離婚問題
目次
離婚をする場合、親権や養育費、財産分与など、当事者間で決めなければならないことがたくさんあります。特に離婚する夫婦の一方が経営者の場合、通常の家庭とは異なる特有の問題があります。
会社経営者(事業経営者)の場合、一般的に年収(役員報酬)が高いうえ、保有する財産の種類も広範囲にわたることから、財産分与や慰謝料などが高額化したり、財産分与が複雑となって紛争になりやすい傾向があります。離婚の際、相手方が、あなたに財産があることをいいことに、不当に高額な金額を請求してくることが多々あります。
このように、経営者の離婚は一般的な離婚にはない「特有の問題」が多く、紛争に発展することが少なくありません。当事務所の弁護士は、そのような不当な請求に立ち向かい、皆様の大切な財産を守ります。
経営者(社長)の婚姻費用や養育費の算定
婚姻費用や養育費は、夫婦双方の収入に応じて算定されます。義務者(婚姻費用・養育費を支払う者)と権利者(婚姻費用・養育費の支払いを受ける者)双方の総収入に基づき、「養育費算定表」を目安に大まかな金額が定まります。
配偶者の一方が会社経営者の場合、年収が2000万円を超えることが多々あります。このような場合、婚姻費用や養育費の算定が非常に難しくなります。
家庭裁判所では、夫婦双方の年収から婚姻費用や養育費を算出する算定表というものを作成しており、多くの場合は、これに基づいて算定されます。
ところが、この算定表は一般的な世帯を対象としているため、義務者の収入が2000万円を超える場合は、「養育費算定表」をそのまま用いることはできません。年収2000万円以上の会社経営者の場合は、個別具体的な事情を加味した計算式によって算出されます。したがって、妥当な婚姻費用・養育費を算定するには、離婚問題についての高度な専門知識が必要となります。
相手方から高額な婚姻費用・養育費を請求されている経営者・高所得者の皆様、まずは当事務所にお越しいただき、正当な金額を算出しましょう。
経営者(社長)の財産分与の割合は2分の1か
共働き夫婦の場合に限らず、妻が専業主婦の場合であっても、夫婦が共に築きあげた財産を2分の1ずつ分けるのが一般的です。これを2分の1ルールといいます。
経営者の場合は、ご自身の才能と努力で会社を立ち上げ、会社を大きくしているケースが多数あります。このように経営者で、個人の特殊な能力や努力によって高額の資産形成がなされたような場合にも、現在の財産をいかにして築き上げたのか、資産の内容、婚姻中の協力及び扶助の状況、職業、収入など様々な事情を考慮し、その結果、2分の1の割合が変わる場合があります。
事案 東京地方裁判所判決 平成15年9月26日 夫は、一部上場企業の代表取締役をしており、婚姻期間中に得た収入は約220億円と非常に多額でした。一方で、妻は、専業主婦でした。 そのため、裁判所は、巨額の収入は、夫の手腕・努力によるものであり、妻の貢献度は低いという判断をしました。 その一方で、婚姻が破綻した原因が主として夫にあること、妻が今後職業に携わることを期待できず、今後の扶養的な要素も加味すべきことを考慮しました。 結論としては、夫の妻に対する財産分与の額は、夫婦の共有財産の価格の合計である約220億円の5%である10億円と判断しました。 |
経営者(社長)の財産分与
財産分与とは、結婚してから夫婦が協力して築き上げた財産を、離婚に際して夫婦で分ける制度です。夫婦の一方が経営者や社長の場合には、財産分与をする際に注意をすべき点があります。
経営者等の場合、保有する財産の範囲が広く、かつ、高額化するため、財産分与の対象となる財産を正確に確定し、かつ、適切に評価する必要があります。
通常、財産分与では、以下のような財産が対象と考えられます。
財産分与の対象財産
① 不動産(自宅・収益物件)
② 預貯金
③ 保険(生命保険・学資保険等で貯蓄型のもの)
④ 動産(車・家財道具等)
⑤ 有価証券(株式・会員権等)
⑥ 退職金(将来受け取るものも含む)
経営者等の場合、①不動産、④動産(家財道具等)、⑤有価証券(株式・会員権等)、⑥退職金(将来受け取るものも含む)について、特に注意が必要ですので、以下でご説明いたします。
不動産
経営者・高所得者の場合、高額な不動産を財産分与として相手に分与するという選択肢が考えられます。
仮に、分与する不動産が購入したときの価格(取得費)より上がっている場合は、分与者に譲渡所得税が課される可能性があるので、要注意です。
当事務所は、税理士とも連携して業務を行っております。
ご自身の財産分与が税金を課されるのではないかというご心配がおありの場合は、当事務所までご相談ください。
動産
家財道具は一般に時価評価額が極めて低いので、財産的価値を検討して財産分与をすることはあまりありません。一般世帯では、テレビ・レコーダー・パソコンなどをどちらが引き取るかが問題になる程度です。
しかし、会社経営者の場合、夫婦の一方が宝石等の貴金属、高級な時計・自動車、小型船舶などを所持していることがあります。これらはすべて夫婦共有財産になり得ますから、これらを調査・時価評価して財産分与をしなければなりません。
有価証券(株式・会員権等)
有価証券については、当事者が保有する株式等が財産分与の対象となります、会社社長の場合、自ら経営している会社の株式についても、財産分与の対象となります。
例えば、夫が会社の代表者で、妻を役員としている会社で、双方が株式を保有している場合、夫の株式だけではなく、妻の株式も財産分与の対象となり得ます。
非上場会社の場合、株式の価格を算定するためには税理士等の専門家の協力が必要です。また、譲渡しようにも、譲渡制限がかかっている場合も多いですので、取締役会の承認が必要になることもあります。
会社経営者(事業経営者)のなかには、ゴルフを趣味にされている方も多いと思われます。そのような方の中にはゴルフ会員権を持っている方もおられます。会員はゴルフ場事業者に一定の金額(預託金)を預けます。このように、ゴルフ会員権には財産的価値があるため、婚姻後に取得したゴルフ会員権は財産分与の対象となります。
経営者の方で離婚をお考えでしたら、より早い段階で、離婚問題を専門とし、かつ、財産分与を得意とする弁護士にご相談されることをおすすめいたします。
退職金(将来受け取るものも含む)
会社経営者(事業経営者)の場合、退職金に相当するものがないと誤解されている方がいらっしゃるかもしれません。
しかしながら、法人を経営している場合、節税目的もあり法人を契約者、会社経営者を被保険者として退職金に関する保険(長期平準定期保険や逓増定期保険等)を掛けていることがあるようです。
経営者にとっても、現時点で役員報酬として受け取るよりも、将来、退任するときに退職金として受け取ったほうが税制上有利になります。
経営状況がよい会社では、経営者に退職金が支給される可能性が高いのです。このような場合、離婚の時期にもよりますが、それによる退職金も財産分与の対象となる可能性がありますので、これらも忘れないようにしなければなりません。
会社名義の財産はどうなるのか?
財産分与の対象となる財産は、夫婦が共同して築いた夫婦の財産です。
夫婦の一方が会社を経営している場合、会社名義の預貯金、不動産等は財産分与の対象とはなりません。会社は経営者とは別人格であり、会社名義の財産は、原則として、財産分与の対象にはなりません。もっとも、名義は会社のであるものの、実質的に個人の財産といえるような場合は、財産分与の対象となることもあります。
相手方が会社経営に関わっている場合について
配偶者が従業員の場合
夫婦の一方が会社を経営している場合、他方の配偶者が従業員となって、会社の手伝いをしていることが多々あります。
解雇については、労働契約法第16条によって、客観的・合理的な解雇事由があり、かつ、社会通念上相当と認められない限りは、解雇したとしても無効と判断されることになります。
離婚という夫婦間の問題と、経営者(雇用主)と従業員という雇用関係の問題は、全く別個の法律関係であるため、離婚をしたというだけでは、当然には配偶者を解雇することはできません。
解雇の可能性については、勤務実態等を詳細に検討する必要があります。無理に解雇してしまうと、離婚とは別に損害賠償請求をされてしまうおそれもありますから、注意が必要です。
配偶者の退職を望まれる場合は、一度専門家である弁護士にご相談される方が賢明でしょう。
配偶者が役員を務めている場合
会社経営者(事業経営者)の方の中には、配偶者を取締役や監査役にしているケースも多いのではないでしょうか。その場合、離婚を理由に直ちに取締役や監査役を退任させることはできません。
取締役と会社の関係は、委任契約(会社法330条)であり、任期があります。したがって、任期が経過後、再任されなければ、役員としての地位は失われます。
任期は、原則として、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結のときまでです(委員会設置会社は1年)。
解任する場合は、株主総会の普通決議によって解任することが可能です(会社法339条1項)。
したがって、夫(経営者)が議決権の過半数を有していれば、基本的には解任することができます。
ただし、会社によっては、定款によって普通決議を上回るように定めている場合もあります。そのため、解任決議を行うに際しては、定款の確認が必要となります。
また、解任のための正当な理由がない場合、妻は会社に対し損害賠償を請求することができます(会社法339条2項)。
また、解任はできたとしても、解任するにあたり、正当な事由がない場合は、離婚とは別に、会社が損害賠償請求をされるおそれがあります。いずれにしても、配偶者が役員に就任している場合、離婚の話し合いをする際は、単に夫婦間の離婚の問題としてのみ扱うのではなく、経営者と役員という問題も一緒に解決する必要があります。離婚したこと自体だけでは、正当な事由とは言いにくいと考えられますので、慎重に解任事由を検討すべきでしょう。
投稿者プロフィール
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弁護士 仙台弁護士会所属
専門分野:離婚
経歴:仙台生まれ。仙台第一高等学校卒業後、上智大学文学部英文科に進学。卒業後、平成14年に弁護士登録。勅使河原協同法律事務所(仙台)を経て、平成24年に高橋善由記法律事務所を開業し、現在に至る。主に離婚問題の解決に従事し、相談者の抱えている問題に寄り添いながら最適な方法を提案し、新たな人生の始まりをサポートしている。
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